東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8012号 判決 1967年5月10日
原告 西川菊次郎
右訴訟代理人弁護士 五十嵐太仲
同 五十嵐公靖
同 土屋博昭
被告 株式会社水垣商店
被告 水垣正明
右被告両名訴訟代理人弁護士 田利治
主文
被告株式会社水垣商店は、原告に対し金六、〇七五、〇〇〇円と右金員に対する昭和四二年四月一一日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員とを支払え。
原告の被告水垣正明に対する請求を棄却する。訴訟費用中、原告と被告株式会社水垣商店間に生じた分は被告会社の負担とし、原告と被告水垣正明間に生じた分は原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
一、<省略>によると、原告は請求原因において主張するような手形要件ならびに裏書の記載がある本件約束手形を、訴外水垣水産株式会社の社員である訴外豊島、同平手広吉の割引依頼に応じて、同会社から割引取得し、本件約束手形上の権利者となったものであるところ、昭和四一年七月一六日から翌一七日にかけて原告事務所に侵入した賊のために本件約束手形が盗難にあったので、原告が主張するように公示催告の申立を行って除権判決を得た(除権判決を得た事実は当事者間に争いがない)ことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠は存しない。
二、つぎに<省略>によると、本件約束手形の振出人欄になされている被告会社の記名押印は、同訴外人が被告会社の社員である訴外林初江に命じて作成させたものであるところ、訴外水垣敏勝は被告会社の代表取締役である被告水垣正明の三男であり、代表権こそなかったけれども、被告会社の専務取締役として当時被告会社の手形振出を含む業務の執行に従事していたものであって、被告会社から業務の執行に関する包括的な代理権を付与されていたことが認められるのであるから、同訴外人が自ら代理資格を表示して手形行為をすることなく、被告会社の代表取締役水垣正明の記名押印の代行を訴外林初江に命じて本件約束手形を作成したとしても、被告会社が本人としての責任を負うべきことは明らかである。右の署名の代行について承認を与えなかったことをいう被告水垣正明本人尋問の結果も右の判断を左右するには足りない。してみると、被告会社は本件約束手形の振出人としての責任を負担するものといわなければならない。
三、被告水垣正明名義の、本件約束手形の共同振出人たる署名押印が、同被告の意思にもとづいて作成されたことを認めるに足る証拠はない。すなわち<省略>によると、本件約束手形は訴外水垣水産株式会社において所持していた当時、振出人として被告会社の記載があったに過ぎなかったのであるが、訴外豊島が原告に本件約束手形の割引依頼をしたところ、原告から代表取締役の個人保証を要求されたので一旦訴外会社に持帰り、同会社の代表取締役であった訴外水垣五郎の指示のもとに、同会社の社員である訴外神戸某が、被告水垣正明の署名を代行し、その名下に訴外水垣五郎が所持する印章を押捺して、本件約束手形上に共同振出人たる被告水垣正明の署名押印を作成したものであることが認められるのであり、訴外水垣五郎、同神戸某等がこのような行為をするについて被告水垣正明から正当な権限を授与されていたことについてはこれを認める証拠がないのである。もっとも、<省略>によると、原告は、本件約束手形を割引取得するにあたり、前示のように被告水垣正明の署名押印を得たのちにおいて、本件約束手形を原告の事務員である訴外松本庄次をして被告会社に持参させ、前示のように被告会社の専務取締役であった水垣敏勝に面会して本件約束手形の振出の真正ならびに支払期日に決済し得ることを確認させたところ、その際同訴外人は、被告水垣正明の署名押印が同被告の意思にもとづくものでないことについて全く発言せず、訴外松本の求めに応じて本件約束手形の振出の真正および期日における決済を確認したものであることが認められるのであるけれども、訴外松本庄次らが被告水垣正明に直接本件約束手形上の行為が同被告の意思にもとづくものであることを確かめていないことは右の証拠自体でも明らかであることを考えると、右の証拠をもってしても、前掲証人豊島肝の証言および振出を否認する被告水垣正明本人尋問の結果を覆えして、被告水垣正明が本件約束手形の共同振出人であることを認めさせるには足りないものと解するのが相当であり、他にこの判断を動かすに足りる証拠はない。<以下省略>。